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 洋介は合気道部顧問という責任から、毎週合気道を習いに行っていた。  既に初段の腕前を持っていたのだが、やっていないと奇麗さっぱりと忘れてしまうからだ。  道場へ行くには車が必要であった。しかし、道場まで車で行く自信が洋介にはなかった。洋介が初めて買った車は360ccの軽自動車である。道場までの一番の近道は高速を使うことだ。しかし360ccの軽乗用車では高速を大手を振って走れない。怖かったのだ。  そこで、洋介はこれ幸いとばかりにこの整形外科医院の駐車場に車を置いて道場まで電車で通っていた。明らかに駐車違反であるが、生徒が怪我をしたらよく連れてくる医者なので、気が咎めることはなかった。  しかし、駐車違反は駐車違反。  これが洋介を二度目の土下座へと誘うことになろうとは誰が想像したであろうか?    ある日、洋介はいつものようにこの医院へ車を置き、合気道の道場へ出かけた。悪いことをしているという意識は微塵もなかった。そう、洋介は田舎者だったのである。田舎では、どこにでも車を駐車できる。パーキングの概念が欠落していたのである。  その日、洋介は一緒に合気道を習っている同僚の教師の車でこの医院まで送ってもらった。  同僚の車から降りると早速洋介は愛車の360ccの元へキーを持ってでかけようとした。  その時である。医院の電灯が燈され、中から大声が聞こえた。  「あんた誰や。」  巨漢の男が出てきた。この医院の医者である。  また、この男、薬袋に「医学博士」と書いてあったのを洋介は記憶していた。  「医学博士である。偉いのである。」  洋介は勝手にそう思い込んでいた。  「あんたか?いつも車勝手に駐めているのは。」  「(しまった。これは謝らなくては。この医院へは生徒が怪我をするたびに連れて来ているのだ。)」  「すみません。」  洋介は大男に対して言った。  「あんた、仕事は何や?」  ここで馬鹿正直に答えるのが田舎者の田舎者たる所以である。  「はい。○○高校の教師です。」  「何?先生がこんなことするのか?新日鉄に勤めている人でもせえへんで。」
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