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そして洋介は、あらかじめ考えていたように教卓で土下座を決める。
「皆さま、誠に申し訳ございません。世界史のプロであるこの私が何という不覚。もしも皆様が入試でこの間違った字を書いてしまったら私めの責任でございます。どうか、平に、平にご容赦をお願いします。」
この学校の教卓は一段高くなっていて、土下座をしていても生徒の反応は手に取るようにわかる。
授業は無茶苦茶になっていた。
進学校であったので、動き回る生徒こそいなかったが、皆隣りや前後の生徒と何かひそひそと喋りまくっていた。
「あ。わかりました皆様。私め、タヌキに取り憑かれて授業ができなくなったのでございます。今からこのタヌキめを追い出すので、よく聴き耳を立ててご覧下さいませ。」
そして洋介は何を思ったのか真光の祝詞を唱え始めた。
「極微実相顕現四界高天原に神魂萌え出でますすめらが睦カムロギカムロミの御力以ちて、万世と人の御親神天津主の真光大御神、払い戸の大神達、諸々のサカゴト魂の汚れをば真光以て払い清め禊ぎたまいて、神の力蘇らせたまえと申すことの由をかしこみかしこみも申す。
あかん。タヌキは出ていかん。タヌキのポン吉に取りつかれた。」
完全に狂っていた。
そして、次に洋介から信じられない言葉が発せられた。
「わしは犬以下や!犬以下のタヌキや!そうや、犬以下なら犬らしく四つん這いになって皆様の机間巡視をさせてもらいます。」
そう言うが早いか、洋介は土下座していた上体を起こして、四つん這いになって机間巡視をやり始めた。
「皆様、誠に申し訳ありませんが、その間プリントをやって下さいませ。」
四つん這いの後、教卓に戻った洋介はそう言ってプリントの束を取り出し、教卓で並べると、「後ろへ回して下さいませ」と言ってプリントを配った。そして、また四つん這いになって机間巡視をやり始めた。
「先生やめて下さい。」
そんな声が聞こえてくる。
その時である。真面目な生徒会長が言った。
「先生、その方がやりにくいんですけど。」
「そうでございますか。誠に申し訳ありません。」
「こりゃあかんわ。」
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