1人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、この先公狂ってるぞ。」
誰かが呟く。
このクラスを洋介は知らない。たまたま自習の監督に行っただけのクラスであった。しかし、このクラスの担任は組合の闘士であった。
当然のことのようにこれを問題にした。
「大山先生、これ体罰じゃないですか。それに山崎の歯折れてましたよ。」
「それがどないしたんや?このアカめ。誰に向こうて口聞いてるんや?」
もう誰も止めることができなかった。
そして、その日のうちに親が怒鳴り込んで来た。
「校長先生、ちょっとやり過ぎじゃありませんか?うちの子は怪我をしてるのですよ。大山という先生を出して下さい。」
洋介が校長室に呼ばれる。
「これがボケナスの親か?ほんまによう似てしまらない顔してるなあ。」
これが洋介の第一声であった。
「大山君、何だ一体その態度は?謝りなさい。」と校長。
「嫌やね!わしは舌でも出そう。べー。」
「校長先生、この人頭おかしいのと違いますか?私、教育委員会へ訴えます。」
「どうぞ。私は謝る気なんかありませんから。」
「あなたは体罰をやったんですよ。」と校長。
「体罰と違いますがな。暴力でんがな。それがどないしてん?」
「あんた、前の校長から聞いたらよく謝っていたって話やないですか?謝る気は本当にないのですね。」
「ああ、ありまへんなあ。」
こうして洋介は教育委員会の査問委員会にかけられた。
下手をすれば懲戒免職であったが、なぜか三か月の減俸だけで済んだ。
しかし、この土下座教師を、一時的であれ、こうも変えてしまったものは何だったのだろうか?
それは彼の関わった「現正法」と呼ばれる宗教にあった。
それについて話すのはこの目的から逸れるので、詳しいことは言わないが、極端な反共主義と動物愛護、それから「子供は殴って育てよ」という教育論をその特徴としていた。
キリスト教の影響を受けた宗教であったが、聖書よりも教団の出す機関誌や本を拠り所としていた。
そして、洋介の心にあったのはキリスト教のような「殉教者」の姿であった。
最初のコメントを投稿しよう!