沼の人魚

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 私が長考に入っていたのは、アスターの怪訝な声でかき消された。それに私は慌てて謝る。 「ごめんなさい……ちょっと考えていて」 「そっ。で、あの美人さん、まだしゃべれるみたいだけれど。どうする? 今だったら触手にさえ気を付ければ、やれるけど?」 「っ、あの子に助けるって言ったんです! 攻撃なんて駄目ですからね!?」 「冗談よ、冗談。で、できそうなの? 祓うのは」  私は母親人魚のほうをじっと見る。  彼女はまだ、理性が残っている。完全に穢れに取り込まれてしまったら、もう祓うことができないって言っていたけれど、彼女はまだ間に合う。  もし、私がリナリアからもらった象徴の力【幻想の具現化】が本来の力を使えたら……助けることができる?  私は彼女をじっと見ながら、頭の中で思い浮かべる。思い浮かべたのは、彼女の記憶の場所。何度も何度も行こうとしたけれど、あそこに行くことができなかった。でも……今だったら行けそうな気がする。ううん、行かないと駄目だ。  ふいに、頭の中に色とりどりの花が、匂いまで嗅ぎ取れそうなほどに、はっきりと再現できた。  サーモンピンク、オレンジ、ピンク、紫……そして、淡い緑の茎……。 **** 「来られた……」     
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