210人が本棚に入れています
本棚に追加
私が目を覚ますと、アスターはさっきと同じような様子で、私を待っているようだった。
どうも私が意識を記憶の場所に飛ばしていたのは、一瞬程度しか時間が経っていないらしい。そりゃそうか。セーブ&ロードしている間に、時間が経過しているなんてこと、ゲーム中にだってあるわけじゃないんだから。
私は母親人魚のほうをじっと見た。
リナリアの持つ象徴の力の、本当の使い方を見られたんだから、なんとかなる。
手を伸ばすと、必死で溢れ出す言葉を口にした。これは聖書の言葉を詠唱するのとも、魔法の呪文を詠唱するのとも違う。神託……に近いものなんだと思う。
「闇落ちる場所に光あり、夜ある場所に朝はあり、示せ夜明けよ、照らせ天よ……闇祓」
詠唱が終わった途端に、母親人魚の鋭かった眼光が緩んだ。
途端に濁っていた水から汚泥がぐるんと巻き上がったかと思ったら、粉々に拡散していったのだ。
母親人魚も、荒々しい雰囲気が払拭され、アズレアを見た。
「私……は」
「お母さん!!」
途端にアズレアは母親人魚に抱き着いた。もう彼女は髪の毛を力任せに動かして、人を引きずり降ろすような真似はしないだろう。
アスターはそれを感心したように眺めていた。
「やー……驚いたわ。本当に祓うとはなあ」
最初のコメントを投稿しよう!