沼の人魚

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「はい。ちゃんとできてよかったです。人魚が完全に穢れに取り込まれていたら無理でしたが、間に合ったので」  理屈で言えば、神託や火の祭壇で出会った神の雰囲気をそのまんま具現化し、母親人魚に流したというところだろうか。 【幻想の具現化】は、ただのコピー能力ではない。あれは象徴の力の持ち主の幻想……思いついたり見たり聞いたりしたものを、現実に浸食させる力だ。ただ私の想像力や力だったら、間近で見たものじゃなかったら劣化コピーすらままならなかっただけで、この力は本当だったらもっと応用できる。  ただ……私はすっかりとくたびれて、水泡の中でしゃがみ込んでしまった。さすがに神の雰囲気をそのまんま具現化しようとしたら、気を張り過ぎて、長時間使い続けることは、まず無理だ。  周回プレイを続けているリナリアのほうが、もっと体に優しい使い方ができるんだろうけれど、今の私にはこれが精一杯だ。  私がへたり込んだのに、アスターもしゃがみ込んで、私の頭を撫でてきた。 「そっか。まあよかったな。美人さんを殺すのはこっちも不本意だしな」  セクハラか。普段だったらもうちょっとやんわりと「やめてください」と言ってアスターの手を振り払っていただろうけれど、今はそれをするのさえも億劫で、されるがままになっている。     
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