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母親人魚はアズレアにより髪の毛を剥がされ、ようやく岩から抜け出てきたけれど、こちらに対して警戒心を緩めることはなかった。
「……助けてくれたことには感謝する。だが、ここは我らの縄張りだ。今は見逃すが、早く出て行け」
「お母さん! でもこの人たち……」
「いえ……アズレア。いいんですよ。お元気で」
アズレアはなにか言いたげだったけれど、私たちもそろそろ水泡の強度が限界だし、皆の元に戻ったほうがいいだろう。
私たちはアズレアと母親人魚に手を振って、戻ることにした。
……人間が人魚にしたことを思えば、人魚に嫌われてもしょうがないと思うしね。
そのままくぷくぷと泡が立っているのを眺めながら地上を目指していたところで。
アスターが耳栓をスポンと抜いたことに気付いた。
「アスター、まだ沼を出てませんのに」
「大丈夫大丈夫。リナリアちゃんのおかげで今晩の内は人魚も見逃してくれるだろうし、明日には沼から完全に離れるしな」
そう言いながら、今度は私の耳にまで触れると、耳栓を引っこ抜いてきた。ようやく圧迫されていた耳が自由になったけれど……アスターがなにをしたいのかわからず、私は目を細めて見上げてしまう。
アスターは相変わらず飄々とした態度で「さて」と口を開いた。
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