偽りの巫女と放蕩貴族の密談

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「……他の人はどうかは知りませんが、私には憧れの人がいますから。私はその人の志を尊いと思いました。だからその人の志を守りたいと思った、それだけです」  神殿が一枚岩じゃない、国や神殿がさっさと行動に移さないってことくらい、私も一年は神殿にいたから嫌というほど思い知っているけれど。でも。  リナリアと約束したんだ。誰も死なさないルートを手繰り寄せたいと。そこにだけは、なんの嘘もない。  アスターはそれに目を細めて、ふっと笑った。ようやく探るような色は解いてくれたみたい。 「そうか。リナリアちゃんもお人好しだなあ」 「私より、何倍もお人好しな人を知っているだけですよ」 「そうか」  何故かアスターはほっとしたような、納得したような顔をしたのが気になったけれど……。下手なフラグは立ててない、よね? 「あの、私のことを、誰かに告げますか?」 「えー。リナリアちゃんが偽物の巫女としても、それを言って代わりなんているの? 誰も命がけの仕事を肩代わりなんてしたくないでしょ。リナリアちゃんは、巫女の使命を続けるつもりなんでしょう?」 「それは、もちろんです」 「そっ。ならこの話はここまでってことで」  そのままアスターは笑顔を浮かべたまま、水泡を操る作業に戻ってしまった。     
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