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なにか口止めのひとつとしてセクハラでもされるんじゃないかとヒヤヒヤしていたけれど、アスターは存外紳士的、いや貴族的だった。そんなことは全くなく、水面がようやく見えてきた。
明日には沼から離れるし、それからもうちょっと歩けば、水の祭壇だ。
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はあ、どうにも。
俺はサーモンピンクの髪でかちこちに固まっている少女をちらっと見ながら、水泡を操っていた。
あとちょっとでデートも終わり。野郎共の顔を拝むまでもうちょっと。
綺麗なお兄さんと可愛い女の子がふたりっきりっていう絶好のシチュエーションだっていうのに、可愛いその子は肩を強張らせて、ふたりギリギリ入る水泡の中でもなんとか距離と取ろうとしている。
ガードが固いな、本当に。
夜会で令嬢のお相手をしていれば、こちらからさんざん情報を引き出して、自分のことを一切しゃべらないという話術の持ち主とさんざん遭遇するけれど、どうにも彼女はそんな腹芸ができるタイプには思えなかった。
どちらかというと、一生懸命自分の話をしないように黙っているように感じる。アマリリスとかで遭遇する、必死で令嬢をアピールしているお嬢さんとなんら変わりがない。
その必死で嘘をついている根幹っつうのがわからねえな。
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