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「……やめろよ」
「隣同士だったのに、お互い引っ越してさ。ママは毎日泣いてるし。パパはどこにいるか分からないし」
「やめろって。そんな話をしに来たんじゃねえし。帰るぞ」
「だって」
9:12
「ほらほら、お店で騒がないで。太陽の神に焼き殺されちゃうぞう」
「地味に怖いこと言うなよ」
「……浅ちゃんのばか!」
ここで愛依が店を飛び出す。追いかけないとそこでバットエンド。追いかけても、バットエンド。だから立ち上がるしかない。
「マスター、ツケで」
「はいはい。荷物取りに来るときに払ってね」
マスターは慣れた様子で、テーブルを片づけだした。その様子ももう32回目だ。
追いかける愛依の後ろ姿。ここで、追いつけないのは、俺が帰宅部代表の運動音痴担当だからだ。
9:14
「愛依!」
「ばか、ばか! あほ! どうてい!」
「愛依!」
「浅ちゃんなんて、二十代で禿げろ!」
地味な攻撃がクリーンヒットしていく。それでも俺は、止めることしかできなかった。
「私は、ずっと浅ちゃんと一緒にいれると思ってたのに。寂しくて部活に打ち込んでこんなに焼けて。なのに浅ちゃんは色白で、私がいなくてもいても、そんな」
「いや、暑いじゃん。クーラーと扇風機ないと死ぬだろ」
「そーゆうとこ!」
9:15
ぐんぐん走っていき、駅前の商店街前の交差点で信号に引っかかる。
振り返った愛依は、泣いていた。
「答えて。浅ちゃんは私のこと、好き?」
「好き。好きだから、その、えっと、とにかく好きだ」
「……うそつき!」
「飛び出すな!」
間に合わない。必死でその手を掴んだ。
「俺だって、愛依が好きなんだよ!」
掴んで歩道に投げ入れると、入れ替わりで俺が道路に倒れていく。
その俺のすぐそばにトラックが突っ込んでくるのが見えた。
バットエンド。
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