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『浅ちゃん、浅ちゃん』
隣の家の、幼馴染。いつも短い髪に、ふわふわのワンピースを着ている。
庭でシャボン玉したり、縄跳びしたり、俺が窓から顔を出すように気を引いてくる。
負けん気が強くて、口では勝てない。自分勝手でわがままで、なのに。
『パパが、パパがいなくなっちゃった』
なのに、脆い。弱い。
幼馴染だったけれど喧嘩別れしていた俺の母親と、愛依の父親は、結婚後実家に戻ってきた。そして隣同士に戻って、昔を思い出して愛が目覚めたらしい。
書置きにはそう書かれていた。俺はただ一言『死ね』と思った。
横で泣きじゃくる愛依を見て、親への愛情なんていっぺんに冷めた。誰よりも強くて、笑顔が可愛いと思っていた愛依を泣かせた。そんな親、いなくなってしまえばいいと願った。
それなのに、愛依の告白に返事をしてしまうと、俺は死んでしまう。
帰り道に車にひかれたり、鉄骨が落ちてきたり、カフェに車が突っ込んできたり。
愛依が死んでしまう場合もある。好きな人間が目の前で死ぬ場面を何回も繰り返してみてしまうなんて、悪夢でしかねえ。
流れていく血が、黒く固まっていく瞬間さえリアルなんだ。
ああ。最悪。どうしたらいいんだよ。俺も好きなんだよ。手を伸ばしたいんだよ。
親もいらねえんだよ。ほしいのは、愛依の笑顔なんだ。なのにどうして、こうも死なないといけないんだよ。
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