眠りの前に

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きっと、どこかで。 「ロイド。ロイド。ねえ、クリスが動かないよ」 ある日、青い顔をして、ソニアとセーバーがかけてきた。 個室コンパートメントへ行ってみると、クリスは冷たくなっていた。髪が一夜で白くなっている。 そんなバカなことが起こるはずはないと、ロイドは思った。 今の、この子たちを試験管のなかで誕生させたのは、わずか二十年ほど前だ。 たしかに、最初にアルフレッドから作った初期のクローンより寿命は短くなっていた。それでも、これまでの個体は三百年近くは生きた。 こんなにも速く、生命エネルギーがつきてしまうなんて、ありえない。 「ねえ、ロイド。なんで、クリスは動かないの? 水槽のお魚みたい」 水族館の水槽は老朽化していた。 いっせいに死んだ魚を見て、クリスは悲鳴をあげたっけ。 ショックのあまり、近ごろ、食欲もなかった。 きっと、だから、死んでしまったのだ。 かわいそうなクリス。 「クリスは冬眠期に入ったのですよ。私がシェルターに入れておきます。ソニアとセーバーは、みんなのところへ行って、朝食を食べておきなさい」 ソニアとセーバーが行ってしまったあと、ロイドはクリスの遺体をかかえ、シェルターのなかへ入れた。     
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