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開幕
「お願いがあるんだ」
そう言って僕の双子の妹は、いつだって寂しそうに笑う。記憶の中で、いつも寂しそうにこちらを見据えている。手に持った刃物をそのまま自分の首元へとあてがうのを見て、僕はたまらず彼女の、神流の元へと駆け寄った。
これから彼女が何をするのか知っていた。それがお願いなどという可愛らしいものでも、約束なんて殊勝なものでないことも、知っていた。
「私のこと、ずっと好きでいてほしいんだ」
灰色の思い出の中で、飛沫と彼女の瞳だけが赤く、鋭く、光っていた。向けられた視線には、懇願と恍惚の色が混ざりあっていたように思う。
きっとこれは罰だ。彼女を拒絶した罰。これは、彼女が自分自身を殺すことで僕に掛けた、最初で最後の――
「永遠に、愛してる」
呪い、なのだろうと思う。
*
"それ"はふとしたときに現れて、僕にしつこく話しかけてくる。僕が何の反応も示さないのを見ると毎回寂しそうに、どこか熱を帯びたような声を、耳元に小さく零すのだ。
「なあ、本当は見えているんだろう?」
僕は知っている。彼女は、僕があえて無視していると知っていることを。
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