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僕は知っている。彼女は、僕の中の後悔に似た感情が作りだした、ただの幻覚にすぎないということも。
彼女の日を拝めない白い肌も、絹のような白い髪も、あの日のあの瞬間のまま所々が、特に体の左側が鮮やかな血糊で赤くにじんでしまっていた。あの日以来現れる彼女はいつも同じ姿で、どこにも怪我などしていないのに血に塗れた肌で、髪で、真っ赤な瞳で僕を覗き込む。
彼女が見せるのは、決まってあの日の回想だった。どこか遠くの第三者が見ているような視点で、回想は始まる。飛び散る赤に、倒れこむ二人。彼は笑っていて、彼女も笑っていた。二人の表情は自嘲するようにも、はたまた互いを嘲笑しているようにも見える。彼女は彼に何かを伝え、彼も彼女に何かを伝えていた。僕はその幻覚を振り払おうとはしない。何も見えない、聞こえないふりをする。そうして眼前に現れた彼女のことも、知らないふりをする。
「……ちゃん。くーちゃん!」
はっとした。友人の、参斗(まいと)の声だ。教室の中にいることさえ、忘れていた。傍らを見ると、彼女はまだこちらを見ていた。机に腰掛け、表情の読めない顔面をこちらに向けていた。それをやはり無視して、僕は答える。
「ごめん、ぼーっとしてた。どうかした?」
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