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「……最近くーちゃんなんか変だよ? 大丈夫……な、わけ、ないよね」
「……」
「やっぱり、神流(かんな)ちゃん……有力な情報とかも、ないんだよね」
世間での彼女、黒曜(こくよう)神流は「行方不明」という扱いらしい。らしい、というよりも、そうなるよう僕が手を回したのだけれど。目の前の彼には僕が、行方不明の妹の事を気にかけているように見えているのかもしれない。本当は行方など知れているのに、目の前にいると言ってしまってもいいくらいなのに。そう考えると、ばかばかしいなあ、と思えてきてしまう。わざわざ事実を隠して怯えている自分自身が、馬鹿らしくて仕方がない。
いや、違うかな。聡い彼の事だ、何も知らないふりをして、気遣うふりをして、本当は全て気づいているのかもしれない。そんな風に疑いだしたらきりがなくなってしまうが、彼は注意しておくに越したことはない人物だろう。今後気をつけねばなるまい、と心に決めて返事をする。
「大丈夫だよ、ありがと、参くん」
ふわりと笑みを浮かべてみせる。それが自然だったかそうでないかは分からないが、とりあえず参斗は納得したようだった。困ったことがあればいつでも頼ってね、と言い残して、授業に備えるため自身の教室に戻っていった。
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