開幕

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 ――気をつけなきゃ、ね。  息をつく。深呼吸をする。目の前の幻影に怯えてはいけない、自分のしたことに怯えてはいけない。隠し通すのなら、全てを騙さなければいけない。勿論、自分の事さえも。  いつも通りの、愛想のいい、生徒会長でいなければならない。優等生の黒曜玖遠くおんでいなければなるまい。何もなかった。何も見ていない。何も、変わってなどいない。そうして僕はいつも通り、一日を終える。  会長としての仕事を終えるころには、校内には参斗と自分しか残っていなかった。夕方だと言うのに日はまだ僕たちを刺していて、単純に帰路につくには眩しすぎる気がして、神流の日傘を取り出した。 「くーちゃん、日傘なんて差すタイプだったっけ」 「……神流が、遺していったものだから」 「そ、っか。……あはは、柄でもないね。傘だけに。なんちゃって」  それはえだろう、と言いかけて、馬鹿馬鹿しいな、と無視しようとしたが、やはり思い直して答えた。彼なりの気遣いかもしれないと思ったのだ。 「もしかして参くん、気遣ってくれた?」 「ぜーんぜんっ。さ、帰ろ帰ろ。お仕事頑張ったしさ、早く帰って休まないと! くーちゃん体弱いじゃない。体に障るよ」     
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