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5.彼への罰
「ごめん……っ……ごめん、彩綾……」
喉から悲痛な声が漏れる。歯を食いしばり、唇を血が出るほど噛み締め、何度も壁を殴りつける。何度も、何度も。拳が真っ赤にはれ上がってもやめることはない。
彩綾を閉じ込めているガラス張りの部屋を出た涼は、自室に戻り、慟哭していた。
「俺が……俺さえ……いなければ」
近くにあった椅子を蹴り飛ばす。鈍い痛みが走るがどうでもよかった。彩綾の痛みに比べたら感覚とすら呼べない。
涼は壁にぶつかるようにして寄りかかると、そのままズルズルと座り込んだ。
(本当は、治るのに)
彩綾の足が二度と動かないなんて、嘘だ。
手術直後は治る見込みは全くなかったが、最近の検査で、治る可能性が出てきたのだ。
もちろん、絶対治るという保証はないし、厳しいリハビリになるだろう。それでも、歩けるようになるかもしれない。
それなのに、涼はずっと言い出せなかった。
何故か?そんなの簡単だ。
涼は彩綾に恋をしていた。臆病で一途なあの少女を、手放したくなかった。
恋情?庇護欲?罪悪感?優越感?独占欲?
どれかか、すべてなのか、どれでもないのか。何か月も自分に問い続けてきたが、未だ答えは出ていない。
彩綾の無条件の好意と身寄りのなさに付け込んで、自由を奪い続けていた。
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