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3.彼女の罪
「すまない……。許してくれとは言わない……だが、謝らせて……ほしい……」
彩綾は虚ろな目で、苦渋に満ちた涼の顔を見上げていた。
空っぽの顔。力なくだらりとした四肢。血の気のない青白い肌。
まるで壊れた人形のような彩綾に、涼は謝り続けて、一体何日目だろうか。
「俺のことなど見たくもないだろう……。全ては俺の責任だ。けれど、どうか償わせてくれ。一生をかけて……」
何かを言いかけ、結局口を閉じてしまった。
(違う。涼君、違うんです。涼君は悪くないの。一つも悪くない)
心の中では答えられる。けれど、声には出せない。
出してはいけない。
涼は心底自分を責めていた。彩綾が涼を庇って車に轢かれたこと。そして、彩綾に対するクラスのいじめに委員長なのに気付けなかったこと。
涼は何一つ悪くない。それどころか、手術から入院まで全て用意してくれた。
もし涼がいなければ彩綾はこの世にはいない。全身を強打し、骨や内臓もやられていたが、どうにか手術で持ち直した。
上半身は。
涼が泣きそうな目で、毛布に隠された彩綾の足を見下ろす。もう二度と動かなくなった足を。
「俺のせいで……足が……」
低く掠れた声で呟き、涼は固く目を閉じる。苦しそうに、辛そうに。
(もし、もしわたしが、涼君にお願いしたら、涼君は救われますか)
涼は繰り返し言った。自分に何かさせてほしいと。償わせてほしい、と。
その時からひそかに抱いていた夢があった。いや、夢というよりは欲望。泥にまみれた最低な願い。そんなものを、この誠実で潔白な青年に背負わせていいはずがない。
だがもう、押さえておくには膨らみ過ぎたのだ。
「りょう、くん」
彩綾は涼をじっと見上げ、ここ数か月間で初めて、口を開いた。
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