白石獅子雄は、眠らない

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 耳元でガンガンとフライパンの底を叩き、鬼のような形相で中年のおばさんがオレの名前を怒鳴っていた。 「……おう、母さん」 「おう、じゃないわよバカ息子! いつまで寝てんの、このすっとこどっこい! とっとと起きて顔洗ってガッコ行きなさい。今月遅刻三回目でしょ、母さんいい加減先生から電話かかってくるのイヤだからねっ」 「あ、はい、起きます……」  手を伸ばして枕元のアイフォンの時刻を確認し、溜息をつく。  まだガンガンと音を立てながら、母さんがどすどすと足を踏みならして階段を下りてゆく。 「……あー疲労感はんぱねえ」  チュンチュンとすぐそこの電線で鳴いている雀どもの声を聞きながら、オレは吸い寄せられるように自然に、まぶたを閉じてすやすやと安らかに息を……すって……はいて……またすっ…… 「獅子雄ーっ! 起きろっつってんだろうが、このバカチンがーっ!」  白石獅子雄は、夢の中では、眠らない。
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