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「いやだからさ、大事なのは時間だから、時間。あー、いやまだお前じゃ分かんねえかもなあ、せっかくオレが教えてやっても!」
華奢なグラスの中で金色の泡が踊る。視界でキラキラと反射するなんとかクリスタルでできたすだれの七色の光。
あちらこちらで起こる笑い声をぬうように、直角に置かれた白いソファから身を乗り出して、菊池が訊いてきた。
「いやいやそんなこと言わないで教えてくださいよお。知ってんスよ俺。昨日もキャバ三軒ハシゴしたんスよね? シシオさんマジでいつ寝てんスか!」
菊池は言うほど酒が強くないから、目尻を赤くしてでも丸い目は真剣そのもので、その落差がなんとなく面白いなとオレは思った。
だから。
「あーもー、しょうがねえなあ。じゃあ教えてやるよ、特別だぞ」
もったいつけて前置きをして、十分に菊池の気を引きつけて。
オレはキャバクラ価格のシャンパンを口にしてからニヤリと笑った。
「寝ないんだよ、オレ」
いやいやいやいや、何言ってんスか、またまたあ、なんていい加減な返しをする菊池の目を見据えた。
「お前もさあ、他人と同じことしてたってその他大勢で終わるぞ。ま、別にオレはそれでいいけど」
菊池が目を白黒させて、それからぽかんと口を開けてオレを見つめ返した。
「え、うそ……マジで?」
オレはもうそれ以上何も答えずに、ただニヤニヤと笑って隣の席に入ってきた髪の毛ぐるぐる巻きにした若い女の剥き出しの肩に手を伸ばした。
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