白石獅子雄は、眠らない

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 業界じゃやたらとロジカルシンキングだの効率化だの費用対効果なんて口にしているが、実際の仕事内容はほとんどが打ち合わせと報告書なんかの資料作成。そのうち打ち合わせはどうしたって他人と合わせる必要があるし、拘束時間は全員同じだが、資料の作成には好きなだけ時間をかけていい。  同期がベッドで寝ている時間を資料作成に当てた結果、オレの報告書は「密度が濃い」だの「データが詳細」だの「入社一年目でこれだけの完成度は見たことがない」だの言われて評価された。  この業界の美点のひとつに、超実力主義というのがある。新人だろうがベテランだろうが関係なく、いいプレゼンをした奴は評価され、ポジションが上がって、年収もどんどん上がっていく。  気がつけばオレは同期を置いてきぼりにして誰よりも早くチームリーダーに抜擢され、プロジェクトを同時並行でいくつも回せるようになっていた。  社内の奴らは口を揃えてオレの効率や手際を褒め称えたが、実際のオレは別に効率も手際もよくない。家でだらだら豆菓子を食いながら長時間かけてひとつひとつの案件をこねくり回していただけだ。
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