第1章

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もう頭ん中はイノウのことでいっぱいで、授業の内容なんかさっぱり入ってこなかった。 だってさ、俺が心で思うことをイノウは耳元で返してくるんだよ。耳の奥で囁かれているようななんとも奇妙な感覚で。 あいつには透視能力があるんだろうか。超能力?超苦手分野だから訳がわからない。だけどなんとなくイノウの気配を感じてるのは気のせいではないみたいだ。 テストの時なんて『そんな問題もわからないのか』って馬鹿にする声が聞こえる。肩先を見ても姿はないのに声だけははっきりと聞こえるんだ。 『イノウ?イノウ?』 心の中で話しかければちゃんと 『なんだ?』 と応えてくれる。 『ここの問題が分からない』 『自分で考えろ!』 ってね。自称妖精のイノウは俺の妄想なんじゃないのか? 転んだ拍子にどこか打ったのかもなんて片隅て思ったりしていたけど、イノウは笑いながらそれを覆す行為を俺に見せつけた。試験の真っ只中、イノウは消しゴムをペンケースから試験用紙に転がしたんだ。 『イノウ!』 『ははは。そんなに驚くな。姿を見たくせに妄想なんぞというからだ』 笑い声が遠くなり、プツンと更新が切れたようにイノウの気配が消えた。消えたり現れたり、俺が夢を見てるんじゃないかと錯覚を起こしそうになる。 それでも俺は気配の消えたイノウの姿が見えるわけでもないのに肩先をぼんやりと見ていた。
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