第1章

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第1章

原因は家の前に出来ていた大きな水溜りだった。 学校から帰ってくると家の前に大きな水溜り出来ていた。ここに水溜りができるほど窪みなんてなかったはずなのに、朝から降った雨で出来たんだろう大きな水溜りに不思議に思いながら、何故か大股で跨ごうと足を伸ばした瞬間、事は起こった。 跨いだはずの水溜りに右足がズッポリ落ちてしまった。俺の感覚だと膝まで嵌った気がしたんだ。 なのに嵌ったはずの足は地面に吸い付くように浸かっていて焦った。 ぬかるんだ穴に落ちた感覚だった。 もちろん思いっきりずっこけた。大きく前のめりに。傘を吹っ飛ばして大きく手をついて地面にひれ伏す様になる。 慌てて足を抜こうと足元を見れば、嵌った足はただの水溜りにダイブしていて、膝まで突っ込んだ穴はどこにもなかった。 何度も確認した。この際だから手を水溜りに突っ込んで触ってみる。なのに大きな穴はどこにもない。 大雨の中、道を這い回って、変な目で見られても納得がいかなかったんだ。嵌った感覚のあの穴はなんだったのか。 そして今朝。 洗面台に映る俺の右肩に手のひらに乗りそうな男が座っている。 肩先を見れば何もない。だけど鏡の中にはちゃんと映ってる男。 まだ寝ぼけているのかと目を擦ればクワックワッと肩先から笑い声が聞こえた。 『マヌケズラだな』 身体には似合わない低音のいい声が肩先から聞こえた。
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