3話

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 2048年12月1日 Flower事務所  姫が亜型インフルエンザから立ち直ったのは、現場で倒れてから十三日後のことだった。  なかなか熱が下がらず、朦朧とした意識で過ごす日々で幾度「死ぬかも」と思ったことだろう。王子様を見つけたのに、このままでは死ぬに死にきれないと気力だけで復活した気もする。  仕事復帰の前に事務所に顔を出すように言われ、姫は軽くなった身体で意気揚々と事務室の扉を開けたのだった。 「立川 姫 復活しましたー! みんな、心配かけてごめんね? へぶっ」 「それより先に言うことがあるだろ」 「た、多大なるご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ありませんでした……」  メンバー全員の顔を確認するより先に杏奈に片手で両頬をわしづかまれ、震える声で謝罪を口にする。  杏奈はインフルエンザに感染していなかったはずだが、なぜ一番怒っているのだろう。リーダーの責任感からだろうか。 「雫ちゃん、神楽ちゃん、それに上野さん……ごめんね……姫がちゃんと予防接種を受けなかったせいで……」  プチパンデミックの犠牲者の顔を見るなり、姫はしおしおと項垂れた。 「ううん、私たち予防接種を受けてたし、ウイルスが強力すぎたのがいけないんだよ。もし姫ちゃんが予防していても、姫ちゃんだって感染してたかもしれないし」 「神楽ちゃん……!」 「そうだよ。それに私たちはワクチンのおかげか、そう症状は重くなかったしね。姫は大丈夫だったの? 高熱が続いたって聞いたけど……」 「雫ちゃあん……!」  二人の優しさが身に沁みる。  姫は再度、謝罪と礼を向け、そして仁王立ちをしている上野の元へおずおずと近寄った。 「……あの、上野さんも、本当にすみませんでした」  体調不良でありながらメンバーのスケジュール調整を行ってくれた敏腕マネージャーに姫は深く頭を下げる。  心底反省したといった姫の雰囲気に、上野は用意していた説教を呑みこんだ。 「…………ハア、今度から体調管理はしっかりするように」 「はい!」 「迷惑かけた方々にもきちんと謝るのよ」 「はい!」  体育会系並の良い返事に、上野はぽんぽんと金色の頭を軽く叩くだけに済ませたのだった。
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