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「姫、大丈夫かしら。熱、全然下がらないし、お父さんのところに連れていったほうが」
発熱から一週間は過ぎてしまった。幸い、合併症状など見られないが、姫はずっと高熱を出し寝込んでいる。
母親は心配そうに子供部屋の扉を見つめた。
「下手に動かしたほうがストレスになる。俺はもう免疫があるし、面倒見るからいいよ」
大佐はこの五日間苦しみ続けたが、今日になり体温が微熱まで下がったのだ。
彼は姉のために用意された卵雑炊を持って子供部屋にのそのそと戻ってゆく。
部屋のカーテンを無遠慮に開くと、真っ赤な顔で汗をかきながら寝ている姉の姿が現れた。大佐は枕元にしゃがみこみ「姫、メシ」とぶっきらぼうに声をかける。
「…………、いらない」
蚊の鳴くような返事だった。
「俺が食べちまうぞ」
「どーぞ…………」
「…………」
いつもならムキになって取り返そうとするはずだ。
オレンジ色の髪をがしがしと掻き「元気ないの、薄気味悪いな」とぼやいて、おたふく風邪のように赤い頬を手のひらで覆った。
尋常じゃないほど熱い。喋れるようになっただけマシだろうか。昨日まではほとんど喋らず、ずっと眠っていた。
「俺はここまで酷くならなかったのにな。日頃の行いか?」
「…………」
「……おい」
反論どころか目も開けない姉を見て、大佐は頬をむにむに抓んだ。
苦しそうに顰められていた眉がますます吊り上がる。
「早く治せ。ボン助たちが、お前がいないと盛りあがりに欠けると」
「…………」
返事がないことも気にせず、大佐は言葉を続けてゆく。
「そうだ、もうすぐ誕生日だろ。少し早いけどプレゼント、みんなで用意してある」
「…………と」
「なに?」
「ぷれぜんと……なに……」
ぼやぼやと目を開け、姫が掠れた声で尋ねてくる。
現金な姉に大佐は目を丸めてから、「最新の小型無線機」と胸を張った。
姫の赤く色づいた唇がもごもご動く。
聞き取れず耳を寄せると「………………いらね」と聞こえ、大佐は桃色の頬を全力で引き伸ばしたのだった。
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