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「それにしても災難だったわね。誕生日にインフルエンザなんて」
姫の誕生日は11月25日。
つい先日過ぎてしまったのだった。
怒っていた杏奈もさすがに同情を覚えたのか、吊り上がっていた眉を下げる。
「うん、誕生日の記憶ほとんどないよ……。家族からもらったプレゼントを開ける気力すらなかった……」
「おめでとう! いよいよ来年はアラサーだね!」
「祝われてる気がしないよ汀ちゃん」
「姫ちゃん、優しいファンの方々からお見舞いのプレゼントが届いていますよ」
まどかがいそいそとファンレターやプレゼントが入ったダンボール箱を持ってくる。
姫は丸い目をさらに丸め、頬を赤らめた。
「え? 本当? カッターの刃とか入ってない?」
「そういったものは既に省いてあるわ」
「あったんだ……」
「嫌われランキング三位だもんね……」
上野の言葉も気にせず嬉しそうにプレゼントの開封を始める姫を見て、汀と神楽は心の強いプリンセスに哀れみの視線を向けた。
「防犯上、全部開封済みだけどそこは勘弁してね。食べ物も危険だから除けたわ」
「はぁ~い。あ、このネックレス可愛い~!」
きゃっきゃと子供のようにはしゃいでいた姫は、一辺二十センチほどの正方形のプレゼントボックスに添えられた白い手紙を見つけて「あ!」と声をあげた。
金色のラメで彩られた封筒は、姫がアイドルデビューを果たしてから定期的に送られてくるファンレターである。
いそいそと丁寧に一度剥がされたシールをもう一度丁寧に剥がし、ファンシーな模様の手紙を取り出した。
『立川 姫 様
ネットニュースでインフルエンザにかかったと知り、心配しています。どうか無理はしないでほしいですが、早くテレビで姫ちゃんの笑顔が見たいです。ライブの時に贈ろうと思っていたのですが、多分ライブは中止になると思うので事務所に直接プレゼントを贈ります。あなたの手に届くと良いのですが……。
いつも応援しています。ありのままの姫ちゃんが大好きです。早く元気になりますように。
P.S バイオドクターの出演、楽しみにしています
騎士』
少女趣味のレターセットに不釣り合いな無骨な文字に、姫は顔をほころばせる。
なるべく綺麗に包みなおされた包装を解いた。
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