うそつき

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

うそつき

彼はうそつきだ。 私のことをいつも振り回してきた。 「今日もどこかへ出かけようか」 そう言ったのはこれで何度目だろう。言葉通りどこかへ連れて行ってくれた事なんてないくせに。 「今日は何をしようか」 暢気にそう言った。何もできないくせに。 「今日も綺麗だね」 嘘ばっかり。見えないくせに。 「ごめんね」 彼はそう言った。見えないくせに、私の方をちゃんと向いて、そう言ったのだ。 「嘘ばかり吐いてきた僕だけど、最後に、一つだけ……本当の事を言うよ。」 か細く、今にも消え入りそうな声でそう言った。 見えないくせに、私の手を取り、キスをした。すると、彼の手の力が抜け、するりとシーツの上に落ちた。その途端に、彼は止まった。 私は大声をあげて、一人、病室で泣き叫んだ。 彼は最期に、「愛しているよ」と言った。 私には聞こえた。聞き取れた。彼の、最期の、本当の言葉を聞けた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!