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うそつき
彼はうそつきだ。
私のことをいつも振り回してきた。
「今日もどこかへ出かけようか」
そう言ったのはこれで何度目だろう。言葉通りどこかへ連れて行ってくれた事なんてないくせに。
「今日は何をしようか」
暢気にそう言った。何もできないくせに。
「今日も綺麗だね」
嘘ばっかり。見えないくせに。
「ごめんね」
彼はそう言った。見えないくせに、私の方をちゃんと向いて、そう言ったのだ。
「嘘ばかり吐いてきた僕だけど、最後に、一つだけ……本当の事を言うよ。」
か細く、今にも消え入りそうな声でそう言った。
見えないくせに、私の手を取り、キスをした。すると、彼の手の力が抜け、するりとシーツの上に落ちた。その途端に、彼は止まった。
私は大声をあげて、一人、病室で泣き叫んだ。
彼は最期に、「愛しているよ」と言った。
私には聞こえた。聞き取れた。彼の、最期の、本当の言葉を聞けた。
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