止んだ空は茜色に淀む

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陽田に貸して貰ったダウンジャケットの そのポケットに手を突っ込みながら歩く俺に 突然、陽田が振り返った。 「そういえば、君はいくつなのですか?」 「・・・・・」 その質問に他意はないのだろうが それでも俺の心が一瞬にして凍てつく。 俺の無言を察して欲しいと ニット帽で目元を隠してみた。 「・・・君の足のサイズはいくつですか?」 予想していた質問と異なっていた事に驚いて 俺はニット帽の淵を 少しだけ瞼より上へ押し上げる。 「は?足?」 「そのスニーカー、濡れてるでしょう? この店で長靴や新しい靴を購入しましょう。 明日も雪が降るそうなので」 そう言って、陽田は 安値で男女問わず衣類を販売する店の中に入り、 俺を手招きする。 盛大に勘違いした俺は 違う理由でニット帽を目深に被った。 「別に、こんなもんじゃね?」 「良くはありません。 靴下まで濡れているでしょう。 ひどい霜焼けになりかねません」 入るのを渋った俺の手首を 陽田は少し強引に引っ張る。 「勿論、帰ったらすぐに 暖かい風呂に入って頂きますが その前に明日以降の君の衣類を揃えなければ」 「良いって! 男二人でこんなトコ」 「男性用の衣類も販売している店です。 何を恥じらう必要があるのですか」 ガラス越しでも店内の殆どは女性客だ。 年齢層こそ幅広いが、 男性客は二、三人しかいない。 周囲は物珍しさから俺達を注目する。 その視線が集中して、俺自身が焼き焦がされる。 そんな気がして、居た堪れないのに。 「ここに座りなさい」 「は?なんで?」 陽田は俺の肩を掴むと 背もたれのないソファーに腰を下ろさせる。 自分は膝を床に着いて、 俺が履いているジーンズの裾を 折り畳んで捲っていく。 「って、何すんだよ」 「じっとしていなさい。 足を拭きますから」 「い、いらねぇよ!バカじゃねぇの!?」 悪態を吐く俺に 陽田は問答無用で靴を脱がせる。 蹴って抵抗も考えたけれど、 眼鏡に囲われていない陽田の目元が 丁度よく見下ろせるこの体勢が惜しくて 結局、陽田のなすがままにされていた。
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