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その後花帆は、おせんべいをあらかたしゃぶりつくした頃にぐずり始めて、ミルクを飲ませると落ち着いて眠った。
久しぶりにふたりでケーキを食べて、ゆっくりとした時間を設ける。
ベビーベッドのすぐ傍のソファで隣合って座り、彼が私の腰を引き寄せお腹に手を回している。私はぺったりと彼に上半身を預けた。
今夜、彼の帰りが遅かったのはベビーホンポに寄って花帆の人見知り対策に頭を悩ませていたらしい。
「で……その男の人にアドバイスもらったの?」
「そう。本泣きに入る前に、顔は視界に入れないようにしてせんべいを渡して……」
せんべいに夢中になったところで、ちょっと転がして背中を向けさせて、自分だとわからないようゆっくり抱き上げる。
それであの状態になっていたのかと納得した。
「……うまくいって良かったけど」
「怒ってない?」
「どうして?」
「離乳食の邪魔をしてしまうかなと思ったんだけど……真帆が一生懸命やってるの知ってるしね。彼も奥さんに怒られたと言ってたから」
「……離乳食は、午前中に終わってるし。そろそろ二回にしようかと思ってたし」
それに、どうにかして花帆と関わろうとする由くんを見ていると、とてもじゃないけどダメとは言えない。
「ふふっ」
さっきの、溶けそうな由くんの表情を思い出して、笑ってしまった。
あの、仕事の鬼の『朝比奈さん』は、娘の前では形無しだ。
「……笑ってる」
「だって。花帆に久しぶりに触れてうれしそうだったなって思って」
「……花帆にかかりっきりだと真帆にも中々触れないしね」
きゅうっと腰に回った腕に力がこもった。
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