ある土曜日

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おもちゃ屋にでも行くのかと思いきや、連れられた先はアクセサリーショップだった。 ショッピングモールの3階、隅っこにひっそりと佇む小さなお店だ。 このショッピングモールには度々買い物に来る私も、少し若者向けなこの店には1度も入ったことが無かった。 少年は所狭しと立ち並ぶショーケースには目もくれず、戸惑う私もそっちのけに店員に話しかける。 店員は何を言われたのか、そそくさとカウンターの裏へ向かい何かを探し始めた。 何か取り置いているのだろうか。 「ねぇねぇ、わたしあんまりアクセサリーとか付けないんだけど。」 「だからこうして僕が選んでるんじゃない。自分じゃ絶対に買わないでしょ?」 確かに買わないけど。 そんなやり取りをしている間に、店員は白い箱を1つ手に持って戻ってきた。 蓋を開け少年に見せると、少年はわざとらしいくらいに大きく頷いてそれを私に見せてきた。 青の紐にシルバーの小さなハート、飾りっ気はないが十分に可愛らしいデザインだ。 「私、これどこかで……」 何となく見覚えがある気がした。 自分で買うはずか無いということは、以前誰かから貰ったのだろうか。 「今日のお姉さんに似合ってると思うよ!」 無邪気な少年の笑顔に押され、何故か見覚えのある不思議さも相まって、気付けば購入してしまっていた。 意外といいお値段で、完全に予定外の出費で財布が震えている。 少年は購入したばかりのそれを私から奪うと、付けてあげると顔で訴えてきた。 私は言われるがまま少年に背を向けて、背丈に合わせてその場にしゃがんだ。 するりと胸元にシルバーのハートが降りてくる。 留め金を止めるこそばゆい感覚もほんの一瞬で、少年が手を離しネックレスの重みが首にかかるのがわかった。 そして私は、次に少年がする行動も分かっていた。 全て思い出した。 この見覚えのあるネックレスは、あの人から。 ポンッと両手で背中を叩かれる。 付け終わった合図だ。 私は立ち上がり振り返ると、そこにいるはずの少年は忽然と姿を消していた。
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