0人が本棚に入れています
本棚に追加
おもちゃ屋にでも行くのかと思いきや、連れられた先はアクセサリーショップだった。
ショッピングモールの3階、隅っこにひっそりと佇む小さなお店だ。
このショッピングモールには度々買い物に来る私も、少し若者向けなこの店には1度も入ったことが無かった。
少年は所狭しと立ち並ぶショーケースには目もくれず、戸惑う私もそっちのけに店員に話しかける。
店員は何を言われたのか、そそくさとカウンターの裏へ向かい何かを探し始めた。
何か取り置いているのだろうか。
「ねぇねぇ、わたしあんまりアクセサリーとか付けないんだけど。」
「だからこうして僕が選んでるんじゃない。自分じゃ絶対に買わないでしょ?」
確かに買わないけど。
そんなやり取りをしている間に、店員は白い箱を1つ手に持って戻ってきた。
蓋を開け少年に見せると、少年はわざとらしいくらいに大きく頷いてそれを私に見せてきた。
青の紐にシルバーの小さなハート、飾りっ気はないが十分に可愛らしいデザインだ。
「私、これどこかで……」
何となく見覚えがある気がした。
自分で買うはずか無いということは、以前誰かから貰ったのだろうか。
「今日のお姉さんに似合ってると思うよ!」
無邪気な少年の笑顔に押され、何故か見覚えのある不思議さも相まって、気付けば購入してしまっていた。
意外といいお値段で、完全に予定外の出費で財布が震えている。
少年は購入したばかりのそれを私から奪うと、付けてあげると顔で訴えてきた。
私は言われるがまま少年に背を向けて、背丈に合わせてその場にしゃがんだ。
するりと胸元にシルバーのハートが降りてくる。
留め金を止めるこそばゆい感覚もほんの一瞬で、少年が手を離しネックレスの重みが首にかかるのがわかった。
そして私は、次に少年がする行動も分かっていた。
全て思い出した。
この見覚えのあるネックレスは、あの人から。
ポンッと両手で背中を叩かれる。
付け終わった合図だ。
私は立ち上がり振り返ると、そこにいるはずの少年は忽然と姿を消していた。
最初のコメントを投稿しよう!