ある土曜日

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見ず知らずの少年を迷子案内するわけにもいかず走り回って探すうち、私は導かれるようにショッピングモールの入り口に戻っていた。 さすがは土曜日、家族やカップル、ごった返す人の流れが私の視界を塞いでいく。 広場の中心に立つ飾りっ気のない時計台が、見計らったように16時の鐘を鳴らした。 私はドッと疲れが出て、時計台の麓にスペースを見つけへなへなと寄りかかった。 行き交う人がチラチラとこちらを盗み見ていく。 待ち合わせスポットのこの場所でこんなに疲れているのも珍しいのだろう。 「だーれだ!」 ほぼ閉じかかっていた視界は、予想外にも何者の手で完全に閉ざされた。 チラチラと見られていたのは私の顔が疲れて歪んでいたからではない。 この手の主が不敵な笑みを浮かべながら、背後に忍び寄っていたからだ。 そして私には、この手の主が次にすることも手に取るように分かっていた。 私の目に被せた手を解くと、ポンッと両手で背中を叩かれた。 やれやれと振り返り、見上げるように少し顔を持ち上げる。 そこにあったのは、ニコニコと笑みを浮かべた見慣れた顔だった。
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