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52話 それぞれの道へ
「やったああーーーっっ!!!」
八木澤は歩美の頬にキスをチュッとして、本当に部屋中を飛び跳ねた。
耳まで真っ赤になった歩美は、八木澤のその姿を見ながら呟いた。
「…………うん。嫌じゃないや。好きかも………」
最終進路相談が学校では始まり、進学コースの学生はゾンビのような顔をして登校していた。
就職希望の学生は4分の1は就職を諦めて、進学コースに入っていた。
就職が決まっている学生と、推薦が取れた学生だけが学生らしい笑顔で学校に来ていた。
愛花は本当にギリギリ単位になっていたので、中森と相談した上で、必修科目だけは学校に行かせてくれるように頼んだ。
学校に久しぶりに行くと、クラスメイトに囲まれた。
「ねえ、加藤さん!『彼条』の2部って本当に始まるの?」
「はい?」
「私ね、全部見たよ!泣いたし、笑ったし、本当にあのドラマ好きだったの!続きあるなら絶対また見るからね!」
その子が声をかけたからか、次々に愛花の机の周りにはクラスメイトが集まった。
「裸になるの、イヤじゃなかった?」
「まあ、お仕事だから」
「陸人と付き合ってるんだよね?陸人って、本当はどんな感じ?」
「涼を丸めた感じかな?」
「ずっと加藤さんと話してみたかったんだ!だけど加藤さん、撮影で早退と遅刻ばかりだったから話する機会がなくて。なんだかテレビの人がこうしてクラスメイトって不思議ー!」
「あ、そうだね。ごめんね」
「ね、このまま女優になるの?モデル?」
「とりあえずは女優がメインかな?」
なんだなんだ?……今まで話した事もない人まで。
「おーい、愛花、次の授業地下室だよー。行くよー!」
と、歩美の声に救われた。
「ありがと!歩美。みんないきなりどうしたんだろ?」
「わははは!卒業後で『あの愛と私、仲良しだったんだよ!』の自慢したいだけだろうね」
「………いつの間にか、私って有名になったんだね。必死でやってきたからあまり実感ないなあ」
「うん。もう愛花を利用したり、踏み台にしてやろうなんて思う人なんか居ないよ」
「本当だね。……強くなりたくて、過去に怯えるような生き方はしたくなくて飛び込んだ世界だけど、私、合ってる気がするな。この仕事好きだし」
「適材適所。誰もが憧れるけど、愛花にしかできないよ」
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