2368人が本棚に入れています
本棚に追加
/473ページ
「寝不足なら車怖いから乗りませんよ?」
「してない!してない!さ、乗って!ドライブドライブ!」
もう、吹き出しそうなのを堪えながら助手席に座った。
「さて、どこ行きたい?ネズミーランド?水族館?景色見に行く?」
八木澤は嬉しそうだけど寝不足なのがわかったので、歩美は
「どこか景色いい場所知ってますか?」
と、気を使って言った。
「よーし、前にロケで行ったとっておきの場所行こう!」
車がやっと走り出した。
歩美の気持ちと同じように。
愛花は映画撮影に。陸人はドラマ撮影に。
愛花はやっと怒鳴られる事が減り、誉められる事はないものの、なんとか順調に役になりきる事ができるようになっていた。
愛花の映画は名監督の作品だけあって、脇役まで名前を知らない女優や俳優はおらず、プレッシャーはかなりあったが、役になりきる事で、そんなプレッシャーは感じないまま順調に撮影は進んだ。
陸人も役にのめり込み、ヒューマンドラマならではの幅広い層からの支持を受けて、本当に『俳優・須賀陸人』が板についた。
もう地下アイドルだった面影もない。
ダンサー強姦事件を言わなければ思い出す人は居なくなっていた。
もう季節は秋になっていた。
誰も夏休みなんかないまま、前に向かって必死に進んでいた。
夏希は芸能界を引退するにあたって、その取材は歩美に任された。
夏希は今は『栄養士』の資格を取るため、必死に彼氏、森剛士と勉強していた。
みんながちゃんと自分の道を歩み出していた。
完成間近の3世帯住宅の前に、愛花の母親と父親が見に来ていた。
「もう少しで完成ね」
「ああ。俺らが頑張った形がまた変わるなあ。……あれ?この木は切らなかったのか?」
「陸人くんがね、『どんなに変わっても、変わらない物として残して欲しい』って、お願いしてきたの。陸人くんにとって、愛花にとって、2人が初めて誓いをした木だからじゃない?」
「お母さんが好きだった木だろ?……思い出すのは嫌なんじゃないか?」
「大好きだったなごり。わざわざ切る必要はないんじゃないの?思い出が詰まっていて、愛花との約束の木なら切る必要はきっと陸人くんにはもうないのよ。2人が本当に大人になった証拠ね………」
「ああ。俺らもずっと見守る番だな」
最初のコメントを投稿しよう!