2367人が本棚に入れています
本棚に追加
/473ページ
歩美は初めて異性に自分の話をする事ができた。
「そうか。……俺も怖い?」
「怖くないです。……なんかむしろ、放っておけないような感じする」
「歩美ちゃんは世話焼きタイプなんだな」
「当たり。本当に愛花と陸人さんは放っておけなかったな」
「じゃあ、良いのを見せてあげよう!」
と、車が走り出した。
着いた場所は都内の高級マンション。
「ここは?」
「俺の家。大丈夫。襲ったりしないから!」
と、高級マンションの最上階へ。
歩美は入った瞬間、思いきり叫んだ。
「何これええーーーっ!!」
床に服は散らかりっぱなし。綺麗なはずの窓は結露のあとで、一望できるはずの景色は歪んでいた。
キッチンも缶、グラス、お弁当の容器でシンクはいっぱい。
ベッドの上にも靴下やシャツ、なぜだかコートやセーターまで散らばっていた。
「仕事一筋に生きた男の証ってとこ?」
「バカ言わないで!ごみ袋は?スポンジも!」
「え?掃除するの?せっかくのデートなのに?」
「綺麗にしなきゃデートはしません!ごみ袋ないなら買ってきて!スポンジも!あと洗剤一式!!」
「はい!」
八木澤が慌てて買いに出た。
黙々と歩美はベランダに布団を干して、その間に洗濯を回し、コートやセーターなどまとめて『出して来い』の1言。
八木澤はすっ飛んで出て行った。
八木澤がクリーニングから戻ると、まあびっくり。床まで磨かれていた。
「……すげ」
「こんな所で生活してたら病気になりますよ!あ、風呂場はハイター撒いたから入らないで!手が空いたなら窓拭いて!」
「ディナーの予約したんだけど……」
「する事してから!窓は乾拭きも!」
「はい」
やっとキッチンだけになり、八木澤は『邪魔だから座ってろ』の1言で、自分の家なのになぜだか小さくなって座っていた。
キッチンで洗い物をしている歩美が大きな声で言った。
「もう!やっと世話焼き係から解放されたかと思ったら、また私、世話焼き係じゃないですか!」
八木澤は最初、キョトンとしたが、その言葉を聞いて笑ってキッチンに入った。
「俺の世話、焼いてくれるの?」
歩美の手が止まり、覗き込んでいる八木澤の顔を見た。
歩美は真っ赤になりながら
「………私、世話焼き、好きなのかも……」
と、小声で言った。
最初のコメントを投稿しよう!