必然の歯車

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 かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち  激痛。脱肛などした経験はないが、こんなような感じだろう。腸がひっくり返ってケツから放り出されているらしかった。体を支えている骨や肉から、内臓が引き剥がされる。消化器を中心とした内臓が、水鉄砲のようにケツから飛び出していく。  俺が俺でなくなっていく。その直感は理解でもあった。ああ、俺は俺でなくなるのだなという諦観。しかし、諦観以上の恐怖が、俺の喉をでたらめに震わせた。やめてくれ。そういう意味の言葉や、意味のない言葉も、叫べる限りに叫んだし、こんなに大声が出せるのだと、自らの発する轟音と腹から全身に這いずり回る激痛にのぼせ上がった脳みその奥の方に、どこか他人事のように思い込もうとする自分も存在した。  正気を失う寸前、俺は自分の体の中心から先端までどこも、死人のように冷たく硬直していくのを感じた。血の気が引き、肉は石のようになり、感覚もない。
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