必然の歯車

　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち
　ちょうど目の前の男がそうだった。

　――わ　っ　は　っ　は　っ　は　っ

　男は素っ裸でどうしても股間に目が行ってしまうが、陰茎や陰嚢がだらりと垂れて、こちらに向いているのが気色悪いというようなことも、すでに慣れっこになってしまっていた。回転に呼応してぶらぶら揺れている。ここには重力があり、俺は上を向いているのに、彼は下を向いていて、すまなさを感じさせる。下を向いている方が、辛いはずだが、おっさんはそのことについて言ったことがない。俺もすまなさを感じることをつとめてやめることにした。おっさんは、すまなさに値するような人物ではなかった。

　――は　っ　は　っ　は　っ

　彼の回転速度は俺の半分くらいで、その思考スピードも半分くらいのように思えた。

　――ま　あ　た　高　速　で　ふ　ら　れ　た　な　あ。

　おっさんの言葉はとてもゆっくりとしている。騒音の中、声を張り上げて、ほとんど絶叫しなければ、言葉での意思疎通は取れない。ボディランゲージも顔しか使えないし、どちらにせよたいしたやり取りはできない。ゆっくりとした絶叫とは奇妙なものだ。おそらくはこっちの言葉は二倍の速度で彼には聞こえるはずだ。
　だから俺は、奇妙にもゆっくりと絶叫しなければならない。

　――くうううたあああばああれえええ！！

　俺が呪詛を込めてこう言っても、おっさんはぜんぜん意に介さない。