必然の歯車

　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち　かち
　レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた「ウィトルウィウス的人体図」は、肩まであるモジャ髪をくっきり真ん中分けにして、でこを出した筋肉質のおっさんが描かれている。体脂肪率一桁パーセントのこいつが、ウィトルウィウスなのかは知らないし、ウィトルウィウスというのが人名なのか、おそらくは人名だろうが確証はない。歯車になってからはインターネットも図書館も使えないし、知ってそうな相手もいない。だから俺はとりあえず、この絵に描かれている人物をウィトルウィウスということに仮定する。
　もう一度、念を押しておくが、俺は「ウィトルウィウス的人体図」に描かれている人物をウィトルウィウスと呼ぶことにした。
　ウィトルウィウスは、肩まであるモジャ髪をくっきり真ん中分けにして、でこを出した筋肉質のおっさんだ。それと瓜二つの実物が目の前にいる。気持ち悪いのは、そのすぐ背後にも同じように筋肉質の何者かがいるということだ。
「ウィトルウィウス的人体図」もぴったりと二人の人間が重なっているように見える。単にマンガ的表現でウィトルウィウスの腕や足の動きを示したものであろうが、そうとは思えなくなった。あれは二重になったおっさんだ。