必然の歯車

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 かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち 「ウィトルウィウス的人体図」にはウィトルウィウスを囲うように正円が描かれている。それはまさに俺たちが置かれているこの状況、歯車の回転を予知していたかのようだ。人体の描く正円によって、レオナルド・ダ・ヴィンチは美しさとはなにかを表現しようとしたのだろうが、ウィトルウィウスとなったおっさんから感じるのは、外面的な美しさを度外視するほどの内面的な醜悪さだった。背後にいる何者かはおっさんとぴったり同じ速度で回転していて、表情をうかがうことはできない。  俺が恐れているのは、俺自身もウィトルウィウスになっているのではないかということだった。肩まであるモジャ髪をくっきり真ん中分けにして、でこを出した筋肉質のおっさん。その背後にはぴったりともう一人のおっさんがいる。確認したくとも、振り向けない。
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