必然の歯車

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 かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち かち  次に足が絡み合う。女の足が、おっさんの脇腹に触れ、徐々にぴったりと、一本の樹木のようにくっつく。同体のように見える時間が六秒ほどある。それからまた離れていく。似たようなことが反対側の手足でも起こり、頭部に至る。  おっさんと女の二人は、懐っこい動物、たとえば柴犬のように、恥ずかしがることもなく、首や頬をこすりつけあい、耳を交互についばんだりして遊ぶ。それから別れのときには、激しい口づけをする。  ただそれだけのことなら、この俺の嫌悪感も単なる嫉妬であるとか知ったふうに断じてもらっても構わなかった。俺の嫌悪感に怒りまでもが混入するのは、こうして行われていることが、先にも言った通り、三人ともと行われているからだ。つまり、どういうことだと言うと、おっさんは女のうちの一人とキスをしている間、ほかの一人とは腕を絡ませ、またほかの一人とは足を絡ませているのだ。簡単に言えば、同時の三股で、おっさんは休まず、三人のうちの誰かの口や耳や首筋をべろべろ舐めていることになるし、腕や足を絡ませることになる。そんなことが、おっさんの背後でも起こっている。三倍の二重になっている。
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