この世界じゃない世界のどこか

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 ある時、ニッキが病気になった。  グリンはつきっきりで世話をしたけれど、5日たってもよくならない。  汗をかいた体をふいてあげる、乾いた布がなくなった。  洗ってある寝巻きもなくなった。  薬もなくなった。  卵がなくなった。  牛乳もなくなった。  グリンは初めて、森の動物達の家を訪ねた。  「食べ物と薬とタオルと服をわけてくれ」  けれど動物達は、グリンを怖がって誰もドアも開けてくれなかった。  グリンは動物達のことは好きじゃなかったし、動物達も自分の事を好きじゃないんだから、当たり前だと思った。  全部の家をまわったけれど、誰にも何ももらえなかったので、グリンは大急ぎで森を走り回って、食べ物を探した。けれど、急いでいる時に限って、何もみつからないものだ。  しばらく森の中を探し回って、グリンはやっと、ちょっぴりの赤い木の実を持って家に帰った。  「あっ」  グリンが家に着くと、ドアの前に、乾いた服や、タオル、薬、食べ物が置いてあった。  グリンはほっとして、またお腹の中がむずかゆくなった。ドアの前に落ちていたんだから、借りじゃないな、とグリンは思ったが、これでニッキの看病が出来るな、と思ってニヤリとした。  それから何日かして、ニッキは元気になった。  さてその後、グリンが動物達と仲良くなったかといえば、そうでもない。今まで通りだ。あいさつなんかしないし、向こうだって知らん顔するだけだ。  でもひとつだけ、かわった事がある。グリンが泉の水場で水をかけて大人の動物達を追い払うと、かわりに子供達がやってくるようになったことだ。    グリンは大人達にしたのと同じように、長い毛を水につけてはブルブルとふるって水を飛ばす。  ところが水がバシャバシャ飛んでくると、うさぎやきつね、クマ、リス、ヘビなど、動物の子供達は大喜び。グリンが飛ばす水のしぶきの下で、遊ぶようになった。  グリンは水を飛ばすのも疲れたから、もう帰ろうかな、と思うのに、  「もっともっと」  とせがまれると、なかなかやめられなかった。  水を汲んで家に帰ると、ニッキが  「遅いぞ」  とほっぺをふくらませて待っていた。  ニッキがほっぺをふくらませてグリンを待っていたのがうれしかったので、  
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