この世界じゃない世界のどこか

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 この世界じゃない世界のどこかに、小さな森があった。森にはあらゆる動物が住んでいたけど、人間はいなかった。  そして森の一番はずれには、はぐれものの一匹の生き物が住んでいた。その生き物は茶色の丸い大きな毛玉みたいな姿をしていた。手足は木の枝みたいにヒョロヒョロしたこげ茶色。毛玉の下に、ギョロギョロした目があったけれど、いつもにらんでいるみたい。  目がグリングリンしているから、他の動物たちから「グリン」と呼ばれていたけれど、名前かどうかはわからない。もしかしたら、「犬」とか「クマ」とか「ウサギ」みたいに、動物の種類を表しているのかもしれない。  それとも、ただの「目玉がグリングリンの奴」という意味なのかもしれない。  だって、なにしろグリンはひとりぼっちだったからだ。グリンが覚えている限り、一緒に誰かがいた記憶はない。親も覚えていない。グリンと同じような姿をしている動物はいなかった。  他の森の動物達は、みんな仲良く暮らしていたけれど、グリンは違う。  他の動物に会ってもあいさつなんかしない。向こうだって、グリンに気付かないふりをするだけだ。  1カ所しかない泉の水場で、他の動物に会うと、グリンは長い毛を水にひたして、ブルブルと体をふるって水を飛ばしまくる。水場に居合わせた動物は、あっという間に、頭からズックリびしょ濡れになってしまう。そうして他の動物がイヤな顔をして、水場から出て行ってしまうと、グリンはゆうゆうと水を汲む。  グリンは、どこにも同じような見かけの動物がいないという理由だけではなくて、性格が悪いという理由もあって、いつでも、ずっとひとりだった。  
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