プロローグ

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「ふわぁぁーー」 敷きっぱなしの薄っぺらい布団に、寝ころんだまま手足を思いっきり伸ばし、欠伸をする。 ガサッ、ゴツッ… そうやって全身に血を巡らそうとしたら、手には本があたり、足にも何か物があたった。 「いってぇーな……」    それを合図に文句を言いつつも、さも手足にあたった障害物なんて意に介さない様子で、ムクッと起き上がり、カーテンを開け陽の光を浴びて再び伸びをした後、そのまま洗面台へ向かい歯ブラシを手に取る。  そして、寝ぼけ眼で歯を磨き始めたのは、この家の住人、高田蒼 34歳独身だ。  練り物専門の食品メーカー『さざんか食品』の営業部長である。    会社では、テキパキと仕事をこなし部下からの信頼が厚いが、一歩自宅に入ると何もやる気が起きず、ダラダラと過ごすのが基本だ。  そして、部屋には読みかけのマンガ、万年床の布団、ごみ箱に入らなかったティッシュなどが散乱している。  しまいには、それなりの容姿にも関わらず、デートをしたり、連絡をするのも面倒で、自分のペースを乱されるのも嫌だと思って、ほったらかしにしていたら彼女に激怒され振られてから、10年ほどいない。  
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