猫を飼うということ

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***  結局、土曜日にやってきたリンは親の元に帰らず、蒼の家に留まっている。  何度か『帰ったらどうだ?』と伝えたが、そんな時に限って聞こえてないふりをして、寝たふりを決め込むため、蒼はそのままリンの自由にさせてあげることにしたのだった。   今まで人とあまり積極的に関わってこなかった面倒くさがり屋の蒼でも、自分のペースをそこそこ乱さない、時折かまってやればいいだけのリンとの生活は不思議な程、苦痛を感じず、一緒にいるのが楽しいと思っていた。  そして、月曜日の朝の今も、蒼の横で猫の姿のまま丸まって寝ている。  少しだけ触れていたリンの猫肌がとても温かく、その温かさにまどろんでいたが、さすがに会社に行かないといけないと思い、土曜日干したばかりの布団をごそごそと出た。 「ん? あ、あおい……?」 「あー、ごめん。起こしたか。お前は、まだ寝ていろよ。俺は、今日からいつも通り会社に行かないといけないから起きるけど、猫は、特になにもすることはいだろう?」 「そりゃぁ、ないけどさ……。ふわぁー、俺も起きるー」  欠伸を豪快にしたリンは、猫のまま前足で顔を拭い、立ち上がって伸びのポーズをする。  蒼が洗面所で歯磨きをしていると、足元をウロウロしながら纏わりついてきた。蒼は、歯を磨いた後、キッチンでお湯を沸かして自分の分のインスタントコーヒーを入れる。  そして、リンの分の冷たいミルクをマグカップに入れた後、トーストと共にテーブルに乗せた。 「リン、朝ご飯食べるだろ?」 「うん。今日もカリカリのパン?」 「あぁ。今焼き立てだから熱いぞ」 「大丈夫! いつものように冷ますから」  リンは毛を逆立てて威嚇のポーズを取り、人間の姿になる。  そして、蒼に渡されたお揃いのグレーのスウェットを着てテーブルの前に座り、前足を合わせて『いただきます』のポーズをとった。  この二日間で、人間らしいしぐさや動きも出来るようになってきたようだ。  子供のように順応力の高く、今まさにトーストの熱さを冷ますために息をかけているリンをジーっと見て蒼は、猫もいいものだなと思い自然と頬が緩む。
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