プロローグ

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 そういう出来事以来、女はワガママで面倒な生き物だと思っている蒼は、このまま人と関わり合いを持たずに独身でいるのが、気軽でいいとさえ思っていた。 歯を磨き終えた蒼は、キッチンに行きコーヒーを入れるためにお湯を沸かしながら、ブツブツと呟く。 「あぁー、また朝になっちゃったな。ネクタイを締めるのが、相変わらず面倒……。むしろ、このグレーのスウェットが制服だといいのに。そうしたら、会社へ行って帰ってきたら、そのまま寝られるじゃないか……」  蒼の口癖である『めんどくさい、めんどくさい』を連呼していた間にお湯が沸き、手慣れた手つきでインスタントコーヒーを入れる。  目覚めのコーヒーを一口飲んだ後、渋々蒼が愛用中の部屋着であるグレーのスウェットを脱いだ。そして、会社に行くためのスーツという名の戦闘服に袖を通し、ネクタイを締めて度が入ってない銀縁メガネをかける。    この銀縁メガネも、ダラダラと部屋で過ごしている自分から、会社で少しでもシャキッと見せる為と、初対面の人に必ずといっていいほど大学生に間違われる童顔を隠す目的で、わざわざ目も悪くないのに掛けているのだ。    そして、色素の薄い茶色い髪の毛もワックスで後ろに流す。  これも、すこしでも年相応にみられる為と部長という風格を持たせるようするためだ。外見を気にするからこそ、外に出たくないのが人一倍強いのかもしれないと蒼は思っている。    今日も、グータラな男から頼れる男へと変身をした上で、面倒くさそうに玄関を出る。  いつものように道路を歩いているうちに、家でグータラしていた時とは違う出来る男の風格を取り戻しながら会社へ向かうのだった。
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