本当の姿

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 リンが蒼の家に住み着いて、すでに1週間がたとうとしていた。  今週の仕事をすべて終えた蒼は、リンが大好物だと愛してやまない自社製の猫まっしぐらのカニカマを昼休みに社割で大量購入していたものをカバンに詰め込んでいた。  家から出ることが出来ないことに対してこの1週間、毎朝のように不貞腐れた態度を取っていて、帰ってくると甘えた声を出してそばをずっと離れなかったリンの事を考える。    もともと猫は自由な生き物だ。あの狭い家の中だとストレスが溜まってしまうかもしれないのに、自分はリンを5日も家に閉じ込めていたことになる。  蒼がいないときにも、外へ自由に行き来できるようにしてあげた方がいいのかもしれないと思った。早速、リンの為に帰りに合鍵を作って帰ろうと考え急いで会社をあとにした。    合鍵を作ってる間も、リンが待っていて寂しい思いをしてるのかもしれないから、早く帰らないとな……と思っていたが、いつの間にか頭の中が、リン一色になっていた自分の思考回路に蒼は驚く。  面倒なことが大嫌いで、この10年、極力人と関わることを避けてきた自分が、たった1週間前に出会った猫のことで頭がいっぱいになっているなんて信じられなかった。  一人が楽でいいと思っていたのに、本当は強がっているだけで、ずっと寂しくて適度にかまえてそばにいてくれる相手が欲しかったのかもしれないなと思い、蒼は自嘲気味に笑うのだった。 ***  商店街でリンの分の合鍵を作り、手芸店で鈴と首に付けられるリボンも購入してきた蒼は、玄関を開け、家の中にいるリンに声をかける。 「ただいまー」  声が聞こえないことを不審に思った蒼は、玄関横にある廊下の電気をつける。  ふと、下に目をやると足元の玄関マットの上で猫の姿をしたリンが丸まって寝ていた。リンのお腹をひと撫でしてやると、少し目を開けたと思ったらすぐに仰向けになりお腹を上にして、もっと撫でろと要求してくる。  蒼は、少し苦笑いをすると、平日は朝から夕方までほったらかしにしているという罪悪感もあり、リンの横に腰を落とし、何度もお腹を撫で上げた。
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