本当の姿

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「あおい?」 「あっ……。でも一番偉い猫なら、なおさら家に帰らないといけないだろう?」 「俺はね、親からいい年なんだからお嫁さんを見つけて来いって言われて、家を追い出されたんだ。それでね、今までは、家に居たら執事たちがご飯を持ってきてくれて、自分でご飯を探すってことが無くてね、お腹を空かせて彷徨っているところに蒼がカニカマくれでしょ。それで俺、ビビッっと来たんだよ。蒼からもいい匂いが漂っていたし、こいつが俺の運命のつがいだって……」 「はぁ?! カニカマごときで? 一生決めるものじゃないだろう?」  蒼は、素っ頓狂な声を出しながら、こいつは、本当にバカなのかもしれない。たまたま俺がカニカマを与えただけで一生添い遂げる伴侶を決めるなんてどうかしていると思った。 「カニカマごときって言うなよ。あれは、俺と蒼を繋いでくれた赤い糸みたいなもんだろう? あれが無かったら俺たちは出会いもしてないんだぞ!」  リンが顔を赤くして怒りながら話している内容が、自分の事では無いようで、右耳から左耳へと言葉がすり抜けていく……。 『ビビッと来たからって、一時期流行った芸能人のビビッと婚かよ』と、蒼は頭の中で軽くツッこむと、自然と苦笑いが漏れた。  リンは、今までちやほや甘やかされて育って、勉強とかも苦手で相当バカなのかもしれない。だからこそ、大人な自分が諭してリンに相応しいメス猫の嫁を探させるべきだと考える。 「俺は、お前とどうこうなるなんてこれっぽっちも考えてないよ。それに男同士でありえないだろ。だから、メス猫でも見初めてこいって」  そういうと蒼は、仕事帰りに作ってきた合鍵に紐と鈴をつけてリンの首から下げる。リンは自分の首に下げられたカギを不思議な顔で見つめて、眉毛を八の字にしながら、おそるおそる話しかけてきた。
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