本当の姿

5/6

615人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
「これなに?」 「これは、うちの鍵。昼間とか夜とか外に出たい時に使ってもらおうと思って作ってきたんだ。今まで俺がいないときは、家に閉じ込めちゃっただろ? ごめんな。それに……ほら、これからお嫁さんになってくれそうなメス猫を探すのにも役立つだろ?」  そう伝えた瞬間、リンは眉間に皺を寄せて蒼を睨んできた。  リンは瞳に涙を溜め、蒼の肩を掴んで強く揺すりながら、激しく抗議してくる。 「あおいっ、俺はおまえがいいんだって。一緒にいると楽しいし、優しいし、かわいいし、俺、蒼の事好きだよ?」 「そう言うなって。俺の事を気に入ってくれているのは嬉しいけどさ、年も離れているし。それに、かわいいメス猫の方がいろいろ楽しめるだろう? 俺、胸もないし。おじさんだし、そろそろ加齢臭もしてきているっぽいし……。いい匂いってあれか? 加齢臭のことか? それは、ちょっと酷いなー……あはは」  そういうと蒼は、自分のスーツの匂いを嗅ぎだして、汗臭い匂いに顔をしかめる。その間も、リンはしっぽの毛を逆立てて蒼のことを睨みつけて怒っているようだった。  蒼は、リンの髪の毛をひと撫でして笑いかけた後、スーツを脱いでいつものスウェットに着替えだした。そして、簡単な夕飯を作ろうとキッチンへ向かう。その後ろ姿を睨むようにリンはまっすぐな視線をずっと蒼に向けているのだった。 
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

615人が本棚に入れています
本棚に追加