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結局リンは、夕飯やせっかくリンの為に貰って来たカニカマも食べず、話しかけてもそっぽを向いて無言のまま怒っているような雰囲気を醸し出している。
蒼は、リンへ視線を投げかけ『とりあえず、風呂へいってくる』と一言声をかけてシャワーを浴びに行こうとするも、返事がない。
(どうしようもできないだろ……。リンの期待に応えるのもなんか違うしな。つがいとか、交尾とか簡単に考えていいものじゃないだろう?)
そう思いながら、蒼はシャワールームへ向かう。シャワーを浴びている最中も、何度も何度も先ほどの出来事を考えていたが、自分は何もできないし、間違ってないという結論に達する。そして、お風呂から出た蒼は、元のスウェットを着て、バスタオルで髪の毛を拭きながらリビングへ戻り、再びリンの様子を窺った。
リンは、貞腐れたまま猫の姿になり、丸まって布団で寝ているようだった。寝息が聞こえてきているリンの横に座り、寝顔を見ながら蒼は大きな溜息を吐く。
蒼の家にリンが転がりこんで来る前は、家の中が静かでも気にすることはなかった。それが今はこんなに静寂が寂しくてしかたがなかった。この1週間、リンとの生活を楽しんでいる自分がいる。
もしかしたら、このままこの家からリンがいなくなって寂しい思いをするのは、自分の方かもしれないと思った。
寝ているリンをひと撫でし、蒼はそのまま布団にもぐり、明日の朝はいつも通り話しかけてくれるのを願いながら目を閉じて眠りにつくのだった。
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