好きと好きは背中合わせ

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*** --どのくらい時間が経ったのだろうか。 『何が正解だったのだろう』  リンが出て行った窓をぼーっと眺めながら蒼は、リンの行動について考えていた。  出ていく前に『少しは俺の感情を認めてくれてもよかったんだ』と言っていたのを何度も何度も繰り返し頭の中で考えていたが、リンの好きという気持ちは認めていたつもりだった。  それに猫は、子孫を残すための本能として、メスであればとりあえず交尾をすると聞いたことがある。蒼は男だからその点は、当てはまらないかもしれないが、交尾をしてダメだったら違うとその場で捨てられるというのも受け入れられない理由だった。  人間は、猫の本能でセックスをするのとは違って、愛しているという気持ちがないとセックスを基本的にしないし、蒼自身もしたくはなかった。  もしかすると、リン自身も餌をくれたから、気が合うから好きだというのを、恋愛の好きと勘違いをしているのかもしれない。それに、根本的に生きてきた世界が違う以上、リンの好きの重みと、蒼が思っている好きの重みは違うんだろうと思った。    蒼は、リンの感情を認めてないわけではない。リン自身が愛情をはき違えてるのだろうと思っているのだった。  「もしかしたら、もうアイツは帰ってこないかもしれないな……」  今まで一人で生きてきて平気だったのに、短期間で温もりを味わってしまうと、その倍以上の時間をかけて寂しさに慣れていかないといけないのかもしれない。これから先、どのくらい経てばリンとの思い出が薄れるのだろう。  こんなに早くリンが出ていくと思ってなかった蒼は、少しでもそばに感じていたくて、さっきまで寝ていたリンの寝床に鼻を擦り付けてリンの残り香を嗅ぐ。 「リ……ン……」  蒼は、自分がどういう感情でそんな行為をしているのか分からなかったが、なぜか自然と瞳から溢れた涙が頬をつたう。  そして、リンの匂いを嗅ぎながらいつの間にか眠りに落ちていたのだった……。
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