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今夜も蒼は、リンがいた定位置に顔を埋め丸まって寝ている。
どんどんリンの残り香が消えて行く中で、思い出やリンへの思いも薄まるはずと高を括っていたのだが、薄まるどころか高まる思いを持て余していた。
そんな中、寝ている最中にピチャピチャ……水音が蒼の耳元に響く。
「蒼さま、蒼さま……」
「んっ、冷たい……なっ……」
「蒼さま?」
自分の名を呼びかけられているような気がして、目をそっと開けると蒼の枕元に2匹の猫が鎮座して、蒼の頬をざらついた舌で舐めていた。
「は? えっ?」
「あの……、あなたは、蒼さまですよね?」
「ね、猫? な、なんで……喋って……夢か?」
「あなたがそれを言いますか? リン様も喋っていたでしょう?」
リンの名前を聞いた瞬間驚いた蒼は、布団から飛び起きて2匹の猫を見る。
猫の姿の為、表情を読み取ることは出来なかったが、この猫達はリンの事を知っていて、蒼と一緒に住んでいたという事実もわかっているのだ。
そんな猫達が、わざわざ蒼に会いに来たのであれば、もしかすると、この2匹と共にリンもいるかもしれないと思い、慌てて周りを見渡してリンを探す。
「蒼様、すみませんが辺りを見回してもリン様はいませんよ」
「え? じゃあ、なんで……?」
「私たちは、あなたに会いに来たんです」
「なにしに?」
「自己紹介がまだでしたね。私は抹茶で、こいつは小豆といいます。リン様の身の回りの世話をしている執事猫になります」
抹茶は緑色の目をした白猫で、小豆は三毛猫で毛並みも整っており、やはりリンと一緒で気品があるように見える。リンの周りの猫達も同じように話せたり人間の姿になれるのだろうか。
しかしなぜ、リンの身の回りの世話をしている執事猫が、リンがいないこの部屋にやってきたのだろうかと疑問に思った。
もう、蒼とリンとは縁が切れているのだ。その証拠に、アイツはもう2週間もこの部屋には帰って来ていない。
それがリンと蒼との全ての結果だったのだ。
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